top of page

グローバルリーダーシップの「隠れたスーパーパワー」としての感謝

目を閉じた落ち着いた女性の横顔に、光る世界地図と金色の線で結ばれた地点が重なっている、グローバルな視野と内なるコンパスを表現したイメージ。」

あなたが思う以上に重要な理由


国や文化の境界を超えてリードしていると、毎日がダッシュボード、締め切り、そして決断の連続ではないでしょうか。


市場指標、チームのパフォーマンス、ステークホルダーの期待に加え、時差をまたぐ家族の予定まで、常に頭と心をフル回転させている状態かもしれません。


そのような状況の中で、「感謝」というテーマは、どこかソフトすぎるもの、本当の「仕事」が片付いてから向き合えばいいもののように聞こえることがあります。


けれども、グローバル企業のエグゼクティブとして、そして今は国際的な女性リーダーを支援するコーチとしての経験からお伝えできるのは、感謝は「あると良い」レベルのものではないということです。


それは、静かでありながら非常にパワフルな、リーダーシップのインテリジェンスの一形態です。


感謝は、自分自身をどう見るか、課題をどう解釈するか、そして自分がリードする人たちとどう関わるかを形づくります。


それは、あなたがそのばでどう在るか、つまり「場のいる在り方」に深く影響します。たとえその「場」が、東京のボードルームであっても、パリのカフェであっても、本社オフィスであっても、5つの国に散らばった顔が並ぶZoom画面であっても。


さらに、東西をまたぐトランジションを歩んでいるなら、感謝はもう一つの層を帯びます。それは文化をつなぐ橋となり、自分が複数の世界に引き寄せられているように感じるときでさえ、それぞれの世界から受け取ってきたものを敬うための方法にもなります。


読み進めながら、心のどこかで静かに「これは私のことだ」と感じるところがどこか、ぜひ意識してみてください。


戦略的リーダーシップスキルとしての感謝


ここでいう「感謝」は、「ポジティブに考えなければならない」「何があっても大丈夫だと自分に言い聞かせる」といった意味ではありません。


グローバルなリーダーシップは、現実的にとても負荷の高いものです。再編成やリストラクチャリング、地政学的な不確実性、文化的な誤解、複雑なステークホルダーとの関係、そして常に「適応する側」であり続けることへの疲れ――言語、時差、暗黙のルール、家庭と仕事それぞれの異なる期待に合わせていく負担などに直面しているかもしれません。


リーダーシップの文脈での感謝は、主に次の2つに関わっています。


●      自分の「注意」をどこに向けるか

●      起きている出来事にどのような「意味づけ」をするか


たとえば、こんな問いかけです。


●      難しい1年のさなかにいるとき、目に入るのは失敗や未達成の目標だけでしょうか?それとも、チームが何を学び、どこで信頼が深まり、自分の勇気がどのように育ってきたかも同時に見ることができるでしょうか。

●      ミーティングの場で同僚からチャレンジを受けたとき、それを単なる個人攻撃としてだけ捉えるか、それとも説明を深め、交渉し、関係性を強化する機会としても見ることができるでしょうか。

●      異動や海外赴任が想定以上に複雑だったとき、その苛立ちだけでなく、「新しい文化に自分を広げていくことで得ている成長」にも目を向けることができるでしょうか。


感謝を意識的に育てているリーダーは、決してナイーブなわけではありません。むしろ、グローバルな仕事が持つ複雑さや、その裏側にあるコストを、誰よりもクリアに見ていることが多いものです。


それでも、彼女たちは自分の物語を「足りないもの」だけではなく、「今まさに築かれ、学ばれ、分かち合われているもの」にも anchored(アンカー)させることを選びます。


この内側のシフトには、具体的で現実的な影響があります。たとえば、次のような領域です。


●      人材の定着やエンゲージメント

●      チームの心理的安全性

●      不確実性の中でいかにリードするか

●      そして、そのすべてを「燃え尽きることなく」続けられるかどうか


物事がうまくいかないとき、あなたの注意は自然とどこへ向かうでしょうか。うまくいかなかった点だけでしょうか。それとも、静かに芽生えつつある「何か」にも気づく余地があるでしょうか。


感謝の「異文化的な質感」


感謝という行為は、国や文化によって多様な表れ方をします。


フランス、日本、北米を行き来しながら働いてきた中で、私は「感謝」や「評価」が、どれほどさまざまな形で表現され、時には隠され、コード化されているのかを目の当たりにしてきました。


●      ある文化では、感謝はとても明確で言語化された形で表現されます。「さっきの発言、とても助かりました」「あのお客様への対応は本当に見事でした」「あなたの仕事のおかげで、状況が大きく変わりました」

●      別の文化では、より暗黙的に示されます。小さな気遣い、黙って続く忠誠心、言葉少なげな――大げさな称賛ではなく、控えめなサインとして現れます。

●      また、ある環境では、個人を皆の前でほめることが、その人をかえって居心地悪くさせてしまうこともありますし、別の環境では、公の場で認めないことがむしろ失礼にあたることもあります。


グローバルリーダーとして、こうした「感謝に関する文化的インテリジェンス」を育てることは非常に重要です。それは、次のようなことを意味します。


●      感謝や評価の「ささやかなサイン」を読み取る力を養うこと

●      自分の感謝の伝え方を、相手にきちんと届く形に調整すること

●      良かれと思ってしたことが、相手にとっては不快さを生む行為になってしまうのを避けること


同時に、「自分自身がどこでいちばん理解されていると感じるか」にも意識を向けることでもあります。


この1年を振り返ってみてください。どの文化・どのチーム・どの文脈において、「感謝」がもっとも本物らしく感じられたでしょうか。


どの場で、自分の努力や複雑さ、多国間をつなぐ「橋渡し役」としての役割が、心から尊重されていると感じたでしょうか。


これらの問いは、単なる「気分の問題」ではありません。次のような点に影響してきます。


●      あなたがどこで最も力を発揮できるか

●      ハイパフォーマンスをどれだけ長く持続できるか

●      そして、あなた自身が周囲の人にどのような環境をつくっていきたいか


個人的な振り返り:私の中で「感謝」が変わった瞬間


キャリアのある時期、外から見るとすべてがとても華やかに見えることがありました。国際的な役職、複雑な責任範囲、国をまたいでの移動、さまざまな招待や肩書き……。


私は、実績を次々と積み上げながら、同時に少しずつ「自分自身とのつながり」を失いかけていました。


特にハードだった1年のことを、今でもよく覚えています。また海外から戻ってきた夜、スーツケースはまだ玄関に置きっぱなし。すでにダイニングテーブルの上にはパソコンが開かれ、私は夜遅くまで数字を確認し、複数のタイムゾーンに向けたメールの文面を頭の中で組み立てていました。


もちろん、疲れていました。でもその疲れの下には、別の感情が静かに横たわっていました。それは、言葉にならない「苦味」のような感覚でした。


理屈では、「こんな機会に恵まれてありがたい」と思っているはずでした。けれど、心の中の物語は、次のような「欠けているもの」のリストでいっぱいだったのです。


●      得られなかったサポート

●      期待していたのに、決して届かなかった評価や認知

●      自分自身・家族・自分の考えのための時間の欠如


ある晩、長い一週間を終えた後で、私は意識的に立ち止まることにしました。ノートを一冊取り出し、自分が感じている「不満」や「理不尽さ」を、正直にすべて書き出してみたのです。リストはあっという間に長くなりました。


そして、半ばしぶしぶ、二つめの列を引き、こんな新しい問いを足してみました。


「この経験は、私に“それまでなかった何か”を与えてくれただろうか?」


不適切な行動を正当化するためではありません。現実を美化するためでもありません。ただ、ものの見方の枠を少し広げてみるためです。


驚いたことに、この二つめのリストが、その年の私の捉え方を大きく変えていきました。


●      難しい同僚との関わりは、自分の境界線を明確にし、新たな交渉の言葉を身につけるきっかけになっていました。

●      極めて負荷の高いプロジェクトは、異文化間で、より繊細かつ正確にコミュニケーションする力を鍛える場になっていました。

●      「プレッシャー」としか思えなかった状況は、実は、自分が仕事やその進め方(誠実さや一貫性)にどれほど深くコミットしているかを教えてくれていました。


外側の状況が一晩で変わったわけではありません。けれど、「その状況について自分が語っていた物語」は、大きく変化しました。それに伴い、自分のエネルギー、自己信頼、そして人の前に立つときの在り方も変わっていきました。


感謝は、チャレンジを消してくれたわけではありません。


しかし、そのチャレンジの「内側で」もう一度、自分の主体性を取り戻す力を与えてくれたのです。


あなた自身の物語の中で、「何が足りないか」にばかり焦点が当たってしまっている部分はどこでしょうか。そして、もしそっと視野を広げてみるとしたら、何が見え始めるか、想像してみませんか。


日常の中で実践する:グローバルリーダーとして感謝を根づかせる


感謝をリーダーシップに取り入れるために、サイレントリトリートに参加したり、毎朝5時に完璧なルーティンをこなしたりする必要はありません。今すでにある生活――複数の国、時差、競合する優先事項――の中に、十分に組み込むことができます。


ここでは、今すぐ始められる3つのシンプルな実践をご紹介します。


1. 週末の「3つのクレジット」振り返り


毎週の終わりに、10〜15分だけ時間をとり、次の3つを書き出してみてください。


●      自分自身に対して、感謝したいことを1つ勇気を出して話したこと、きちんと境界線を引いたこと、リスクを取ったこと、ようやく決断できたこと――あるいは、単に「今週もよく持ちこたえた」という事実でも構いません。

●      チームや同僚に対して、感謝していることを1つ差し伸べてもらったサポート、共有してもらった洞察、柔軟に対応してもらったこと、寄せてもらった信頼、率直な対話によって前進できたことなど。

●      自分の“グローバルライフ”に対して、感謝していることを1つ印象的な異文化交流、新しい視点、美しい瞬間――かつては心細さを感じていた街でふと見つけた風景でも構いません。「世界の間に生きる」という人生を、本当に自分で形づくっているのだと実感できた瞬間を書き出してみてください。


この小さな儀式を続けていくと、あなたが自分のリーダーシップストーリーを見る目が少しずつ変わっていきます。単なる「責任のリスト」ではなく、サポート・成長・貢献が織りなす“生きたネットワーク”として捉えられるようになっていきます。


2. 「マイクロ感謝」の瞬間を増やす


年次評価やフォーマルな表彰の場を待たなくても、日々の中にたくさんの「マイクロ感謝」を生み出すことができます。


たとえば――


●      難しいミーティングの後に送る、短いメッセージ:「さっきのあなたの落ち着いた姿勢が、あの場を前に進めてくれました。」

●      海外拠点の同僚に向けたひとこと:「現地ならではの視点を共有してくれたおかげで、大きなミスを防げました。」

●      チームミーティングの冒頭や終わりに添えるひとこと:「ここまで来られたのは、それぞれの見えない努力のおかげだと感じています。」


グローバルチームにおいては、こうした小さなジェスチャーが、大きなプレゼンテーションよりも長く記憶に残ることがよくあります。特に、母国から遠く離れて働いている人、第二・第三言語で仕事をしている人、国境をまたぐ家族の事情を抱えながら働いている人にとってはなおさらです。


3. 境界線を伴った感謝


感謝とは、「不健康な状況を我慢し続けること」でも、「自分をすり減らす役割にとどまり続けること」でもありません。


むしろ、感謝と明確な境界線をセットで持つことは、とてもパワフルな実践です。


●      「このポジションから本当に多くを学ばせてもらいました。そして同時に、その条件をそろそろ見直すべきタイミングだと感じています。」

●      「このマーケットで学んだことにはとても感謝しています。そして、ここに長期的にとどまることは、自分にとって個人的なコストが高すぎるとも感じています。」


これは、とても地に足のついた、現実を直視した感謝のあり方です。これまで与えられてきたものをきちんと敬いつつ、「今、変化が必要なもの」にも責任を持って向き合う姿勢と言えるでしょう。


あなたの人生の中で、「境界線を伴った感謝」を育て始める準備ができている領域はどこでしょうか。


もっと深いギフト:自分自身の物語に「属する」こと


多くの国際的な女性にとって、「どこに属しているのか」という問いはとても複雑です。たとえば、こんな感覚を抱くことがあるかもしれません。


●      ある場所では「よそ者」すぎると感じ、別の場所では「地元の人」すぎると感じる

●      プロとしては尊敬されているのに、個人的なレベルでは十分に理解されていないと感じる

●      「強くて有能な人」と見なされる一方で、誰かに本当に支えられている感覚を持つことが少ない


そのような文脈において、「感謝」を意識的に、優しく、誠実に実践することは、「自分の物語に属する」という行為につながります。たとえ地理的には「どこにも完全には属していない」と感じるときでさえ、自分の人生の物語の中には、確かに居場所があるのだと感じられるようになります。


そうすると、人生は単なる「要求の連続」「転勤の繰り返し」「役割変更の連鎖」ではなくなります。代わりに、それは次のようなものが織り込まれた一枚のタペストリーとして見えてきます。


●      大切な人間関係

●      そこから得た学び

●      内面的な成長


感謝は、グローバルリーダーシップが抱えるとても現実的な困難を、なかったことにするわけではありません。けれど、それらに向き合うときの「足場」を変えてくれます。外からのプレッシャーだけに反応するのではなく、自分の内なるコンパスやノーススター(自分なりの北極星)とより深くつながった場所から、状況に向き合えるようにしてくれるのです。


これからの日々に携えていく、ひとつの問い


これから数週間の間、ミーティングやフライト、学校や家族の予定、ビザの締め切り、国境をまたぐ日常の段取り――そんな現実の真っ只中を歩いていくとき、ぜひ次のシンプルな問いを心のどこかに持ち続けてみてください。


「今この瞬間の中に、たとえ今は大変に感じられても、いつか『ありがとう』と言える何かがあるとしたら、それは何だろう?」


その答えがすぐに見つかることもあれば、とても微かな形でしか見えないこともあるでしょう。


●      ふと勇気を与えてくれた、誰かのひと言かもしれません。

●      静かにそばにいてくれた、ひとりの存在かもしれません。

●      あなたが足を踏み入れたその場で、あなたの声に意味があるのだと気づかせてくれた瞬間かもしれません。


Global Compass(グローバル・コンパス)で私たちがご一緒しているのは、まさにこうしたプロセスです。ご自身の物語を取り戻し、自分の中にすでにある才能と力に気づき、野心や責任感だけでなく、「感謝」「意味」「自己尊重」にもしっかりと校正された内なるコンパスを携えて、グローバルな人生をナビゲートしていけるようお手伝いすること。


感謝は、リーダーシップからあなたの注意をそらす「余談」ではありません。


それは、リーダーシップにおける最もパワフルで――そして本質的にグローバルな――知恵のかたちのひとつなのです。

 
 
bottom of page